近年がん患者のQOL改善という観点から、がん患者の心理的苦痛の軽減という点に関心が集まりつつある。われわれは乳癌をモデルケースとし、実証的な検討を続けてきているが、昨年までわれわれは乳癌患者の心理的QOLの低下に対する集団療法の効果を検討し、のべ80人を超える参加者のデータを蓄積してきた。本年度はさらに対象者を増し、のべ147名のデータについて解析を加えた。これまで同様、参加者には集団療法の前後にQOLの評価尺度であるPOMS、がんに対するコーピング戦略を評価するMACスケールを評価することを文書で告知し、参加者の自由意志による協力を得た。対象者をましても、全体的な結果には変化がなく、集団療法参加後POMSの活気、MACの諦めと恐怖に改善が見られた。したがって、集団療法は過去の内外の研究者の報告同様に参加者の心理的QOLを維持向上させるのに有効であり、とりわけ意欲、癌に対する恐怖感などの改善に寄与している可能性がが示唆された。しかし、内外の研究者が指摘するような、闘病意欲の向上という結果は今年度の結果をあわせても認められなかった。また、集団療法に複数回参加し、それぞれのセッションをまたいでの評価が可能であった参加者については、集団療法の効果が一過性のものにとどまるのか、セッションをまたいである程度維持されるものなのかを評価した。セッションをまたいだ評価が可能であったのは19名であったが、初回集団療法終了時と2回目集団療法開始前ではPOMS、MACとも全ての項目で有意な変化は認められなかったが、初回集団療法開始前と2回目集団療法開始前を比較すると、恐怖が改善している傾向があった。対象者数が少ないため、今回の結果はあくまで予備的な結論にとどまるものの、集団療法の効果はある程度持続する可能性が示された。これらの結果が得られた背景には、我々の行っている集団療法が比較的教育的な性質を持っているからかもしれない。
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