1.はじめに 奈良県橿原市内の中学に通う生徒のうち、年間50日以上欠席した生徒を対象とし、本研究においては引きこもりを「一年以上の閉居」と定義し、閉居は「一週に二回未満の外出」としたが、研究者が奈良県立医科大学付属病院精神科でおこなっている児童思春期外来を訪れる患者のなかでこのような定義に当てはまる症例が少なくない。そこで奈良県の引きこもりの現状を調査する前に上記に当てはまる症例の検討を行った。 2.対象と症例 2002年4月1日より2003年3月31日までに奈良県立医科大学付属病院精神科に新患として訪れた患者1184人を対象とした。そのうち引きこもりを主訴に来院した患者は18人、不登校を主訴に来院した患者は40人であった。前者の12人が社会恐怖と診断された。その他発達障害なども数人見られた。後者は28人が適応障害、6人が発達障害であった。16歳の発達障害の症例をあげる。[症例]16歳。男性。引きこもりを主訴に来院。幼少時よりこだわりが著しいものの言語発達に問題はなかった。いじめをきっかけに高校1年時より不登校が始まり、数ヶ月でこだわりのためもあり引きこもり状態になった。アスペルガー障害と診断しマレイン酸フルボキサミン投与し、1ヶ月でこだわりも改善し外出もできるようになった。 3.考察 上記のように引きこもり症例のなかに、ある一定の割合で精神疾患が含まれていると予想される。なお今回の調査で引きこもりは不登校を前駆症状としていることが多いことがわかった。精神疾患が見逃されていて、引きこもりが長期化する症例もあると考えられるため、不登校の段階の早期に精神科受診させるシステムが必要である。今回の調査では外来受診患者のみを対象としているため引きこもりの現状を把握するのに不十分である。よって来年度以降今回の検討を参考に質問紙を作成し、より広範囲に引きこもりのバックグラウンドを明らかにさせたい。
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