双極性障害(躁うつ病)は遺伝的負因のみられる難治性精神疾愚であり、最も解明が待たれる疾患の1つである。本研究は、従来と異なる方法でアプローチを行い病因解明を試みた。一卵性双生児躁うつ病不一致例2組のリンパ芽球様細胞においてDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現探索を行った。不一致例でのみ差がみられた遺伝子、すなわち疾患に関与している可能性のある遺伝子として、17遺伝子が見出され、XBP1及びHSPA5の小胞体ストレス応答に関わる遺伝子の低下が認められた。このカスケードが躁うつ病に関与していると考えられたため、タプシガルギンによる小胞体ストレス下での反応(XBP1及びHSPA5の上昇)を調べたところ、患者由来の細胞では健常者由来の細胞に比して低下していた。さらにXBP1遺伝子の発現を制御している上流の配列にXBP1遺伝子自らが結合する配列を既知のもの以外に見出し、その結合配列を失わせる多型が患者で多くみられることを発見した。この多型の違いにより小胞体ストレス応答が異なること、またプロモーターアッセイによりXBP1の結合が異なることを確認している。以上から、XBP1遺伝子の多型により、小胞体ストレス反応におけるXBP1遺伝子のポジティブフィードバック機構が低下することが双極性障害の遺伝的リスクを増加させると考えられた。双極性障害の治療薬は現在リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンの3種類が知られているが作用機序は不明で、治療効果も個人個人で異なることが知られている。これらの気分安定薬について小胞体ストレス反応への影響を調べたところ、バルプロ酸のみがXBP1の上流遺伝子であるATF6の発現量をふやし、小胞体ストレス反応を増強させることが判明した。小胞体ストレス応答の神経系における役割の探求が双極性障害の病因解明につながる可能性がある。
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