本研究は未熟なヒト血液細胞であるF36P細胞から新規に同定した細胞膜上発現分子であるM83分子の機能を解析するものである。M83分子は既知の分子と全く類似性がない新しい分子であるため、遺伝子ターゲティングマウスを作成して、その機能を調べるのが効果的であると考えた。昨年度においては、M83遺伝子のゲノム構造を明らかにし、細胞膜貫通領域と細胞内領域をコードしている10〜13番目のエクソンを欠損できるようなターゲティングベクターを作製した。本年度においてはこのターゲティングベクターを相同組み換えによりES細胞E14-1に組み入れ、M83遺伝子欠損ES細胞を5クローン作製することができた。また、このES細胞をマウス初期胚に導入して、キメラマウスの作製にも成功した。現在、導入したES細胞がキメラマウス内で生殖系列に分化できるかどうかを確認中であり、確認でき次第、ヘテロとホモのM83遺伝子欠損マウスを作成する予定である。 M83の臓器での発現はRT-PCRによって腎臓、肺、肝臓、脾臓、リンパ節、胸腺、骨髄で強く認められる。このことからM83の抗体を作製して免疫組織染色をおこなって実際の臓器での発現を詳細に調べようと考えた。M83の細胞内領域C末端の12アミノ酸からなるペプチドを合成し、これを用いてウサギを免役して、M83細胞内領域に対するポリクローナル抗体の作成に成功した。このポリクローナル抗体を用いて各種の組織切片の免疫染色を現在実行中である。同時にM83に対するモノクローナル抗体の作成にも着手しているが、本年度においてはラットの免疫に用いるM83細胞外領域とのFcキメラタンパク質の精製を試みた。
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