我々は従来の検討で、抗CD38モノクローナル抗体によるCD38の架橋が急性白血病細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導することを見出した。また、ヒトCD38再構成系を利用し、抗体分子のFc部分、抗体分子の結合によるCD38分子の2量体化がいずれもシグナル伝達に必須ではないが、ウェスタンブロッテイングによって解析可能なレベルの細胞内チロシンリン酸化の誘起には、抗CD38抗体のFc部分が重要であることを示した。 数年前に一部の糖尿病患者が抗CD38自己抗体を産生しているという報告がなされている。患者血清中に存在するヒト抗CD38自己抗体の持つ白血病細胞増殖抑制効果を検討するためには、高力価の自己抗体を持つ患者を選択する必要がある。我々はヒトCD38遺伝子を導入したマウスBa/F3細胞(Ba/F3-CD38細胞)を用いた抗CD38自己抗体検出系の確立を試みた。Ba/F3-CD38細胞を各種濃度の抗CD38抗体と反応させたところ、FITC標識抗γグロブリン二次抗体の使用によって、フローサイトメトリーを用いた高感度の解析が可能であった。Ba/F3-CD38細胞、コントロールとしてのBa/F3細胞に共に反応しない正常人血清を陰性コントロールとして用いる事によってヒト血清中の抗CD38自己抗体スクリーニングが可能となった。また、Ba/F3-CD38細胞が抗CD38抗体の刺激により細胞凝集を引き起こす性質を利用し、強力な生物学的活性を持った抗CD38抗体を選択することも可能となっている。 さらに、我々はCD38分子を介した細胞内シグナル伝達機構の詳細検討のため、CD38分子の細胞内部分にエピトープタグを導入した変異分子を作成した。当該変異CD38を細胞内に遺伝子導入したところ、野生型と同様に細胞表面に発現することが確認された。今後、CD38の細胞内部分の役割について解析を続行していく。
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