腎糸球体上皮細胞のスリット膜が機能する上で重要な分子であるnephrinは免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞間接着分子であるが、近年の研究で上皮細胞間の相互作用に関わるのみでなく、シグナル伝達分子としての役割を有することが示唆されている。そこで本年度は後腎原器培養系に各種のtight junction形成阻害剤や、シグナル伝達阻害剤を作用させ、その際のnephrin並びに他の上皮細胞関連分子の動態について解析を行ない、スリット膜形成時に果たす各蛋白質の役割を検討した。 ラット胎生15.5日胚から取り出した後腎を12時間培養した後、各種阻害剤を培地に添加して更に72時間培養した。Src特異的阻害剤PP2を2μMまたは0.5μM培地に添加した場合には、器官の大きさに有意な差は見られなかった。このとき、糸球体上皮細胞スリット膜の構成分子であるnephrinのmRNA発現は僅かに低下する傾向が見られ、podocinのmRNA発現は顕著に低下した。しかし他の糸球体上皮細胞関連分子(podocalyxin)のmRNA発現には影響を与えなかった。このことから、スリット膜形成にSrc familyのチロシンキナーゼが関与することが示唆された。 本研究課題で明らかになったことを以下にまとめる。 1.ラット胎生15.5日腎を用いた器官培養系は、スリット膜が機能する上で重要な分子群の発現がin vivoと同様に誘導され、スリット膜関連分子を発現している高度に分化した糸球体が数多く存在し、スリット膜形成の解析に有用である。 2.微量のPANがスリット膜の分化を特異的に阻害し、スリット膜構成分子がPANに対して最も感受性の高い標的であることが示唆された。 3.スリット膜関連分子の正常な発現・分化にはSrcファミリーのチロシンキナーゼが関与することが示唆された。
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