研究概要 |
現在、我が国において維持透析患者の原因疾患では、糖尿病性腎症が第一位でありその進展機序の解明およびそれに基づいた新たな腎症進展抑制治療法の開発は、腎臓内科学において重要な課題である。糖尿病性腎症では、早期に糸球体過剰濾過・糸球体肥大、引き続いて糸球体基底膜の肥厚・メサンギウム基質の増加や尿中アルブミン排泄増加が認められ最終的には糸球体硬化に進展する。腎症早期の段階で、糸球体濾過面積が増加することが報告されているが、この時新たな毛細血管の形成・既存の血管のわずかなelongationといった「血管新生」様の現象が認められる。tumstatinは血管基底膜構成細胞外マトリックスであるIV型collagenのα3-chainのnon-collagenous(NC1)domainで新規の血管新生抑制物質である。tumstatin(244アミノ酸)の血管新生抑制作用は第74-98アミノ酸領域(T7-peptide)に由来するが、そのhomologueであるT8-peptideにも同等の血管新生抑制作用が認められる。streptozotocin誘発糖尿病マウスモデルを用いて糖尿病性腎症早期において、tumstatin peptide(T8-peptide,1mg/kg)を腹腔内投与し腎症の進展阻害効果を検討した。高血糖を来たした時点より投与を開始し、day14およびday21にてtumstatin peptide投与による血糖値への影響は認められなかった。一方、tumstatin投与群ではday14およびday21にて腎重量/体重比の増加が有意に抑制された。早期糖尿病性腎症における糸球体過剰濾過の指標として、24時間クレアチニンクリアランス及び尿中アルブミン定量を行った。tumstatin投与群では、vehicle投与群に比して糖尿病性腎症導入に伴うクレアチニンクリアランス及び尿中微量アルブミンの増加を有意に抑制し得た(クレアチニンクリアランス(ml/min);正常群:0.196+/-0.027,STZ/tumstatin peptide群(day14):0.352+/-0.020,STZ/vehicle群(day14):0.468+/-0.029,STZ/tumstatin peptide群(day21):0.303+/-0.002,STZ/vehicle群(day21):0.461+/-0.013,尿中微量アルブミン(μg/日);正常群:112.0+/-19.6,STZ/tumstatin peptide群(day14):274.9+/-15.2,STZ/vehicle群(day14):442.0+/-18.5,STZ/tumstatin peptide群(day21):255.2+/-8.8,STZ/vehicle群(day21):469.2+/-7.O)。また、tumstatin peptide投与群においてday14およびday21にてvehicle投与群に比して有意に糸球体径の増加が抑制された(正常群:56.7+/-1.7μm, STZ/tumstatin peptide群(day14):62.7+/-1.3μm, STZ/vehicle群(day14):79.4+/-1.8μm, STZ/tumstatin peptide群(day21):70.6+/-1.4μm, STZ/vehicle群(day21):98.0+/-2.8μm)。さらに、糸球体細胞数の増加がtumstatin peptide投与群において有意に抑制されていたが、現在各種細胞マーカーを用いてどの細胞種の増加が抑制されたか検討中である。免疫染色にて糸球体におけるVEGFの発現に関しては各群間で有意な差は認めなかった。一方、CD31陽性の糸球体内皮領域の増加はtumstatin投与群にて抑制されていた。 以上より、tumstatin peptideの早期糖尿病性腎症における血管新生抑制様機序を介した治療効果が認められた。
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