慢性腎不全患者や糖尿病性腎症の患者では、一般に高リン血症が高頻度に観察され、本病態は骨障害や異所性石灰化をもたらすことから予後を左右する重要な問題になっている。しかしながら、血中リン濃度の変化がもたらす各組織における分子シグナルやリン濃度を調節する真の作用機序は明らかではない。また慢性腎不全患者における治療には、活性型ビタミンDやリン結合薬によりコントロールが試みられているが、多くの問題点が残されている。よって、臨床の場では慢性透析療法患者20万人に使用できる安全なリン吸収阻害剤が切望されている。本研究は新しいリン調節系を支配するFGF23の機能とその調節系を解明するものである。これらの研究は慢性透析療法患者に使用できる安全なリン代謝改善薬(リン吸収阻害薬)の開発につながるものと期待できる。 小腸および腎近位尿細管におけるリンの再吸収は主にNaPi type IIa/type IIbによって行われているが、食餌性のリンおよび副甲状腺ホルモン(PTH)はtype IIaの刷子縁膜から細胞質へのエンドサイトーシスを誘導し、リンの再吸収を阻害する。NaPiのエンドサイトーシスに関与すると思われる領域と結合する蛋白質が食餌性リン並びにPTHのシグナルを伝える分子であると考えられる。よって本分子を同定するために、yeast two-hybrid法を用いてラット腎皮質ライブラリーのスクリーニングを行った。その結果、エンドサイトーシスを起こすtype IIaに特異的に結合する分子を同定した。さらにその分子の機能解析を行った結果、食餌性リン・PTHに応答し、NaPiのシグナルを伝える分子である可能性が示唆された。今後、FGF23など他のリン調節分子との関連性を検討し、またリンの代謝異常が見られるモデル動物、Hypマウスや副甲状腺切除動物等を用いて解析を進める。
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