研究概要 |
本研究の目的は、低分子G蛋白RhoファミリーGTPaseの一員RhoAの腎発生における意義を検討することである。平成14年度は、胎児ラット、新生児ラット、成熟ラットの腎臓におけるRhoAやRhoキナーゼROCKの発現を検討し、さらにROCKの阻害薬を用いて、ROCK阻害が腎発生に与える影響を検討した。その結果、RhoA、ROCKがともに胎児腎に発現し、成熟腎には発現を認めないこと、ROCK阻害により尿細管の変形、糸球体形成の障害、腎サイズの増大を認めた。 平成15年度は当初、さらに研究を進め、ROCK阻害による遺伝子の発現変化などを観察する予定であった。しかし、平成14年度の結果を第35回米国腎臓学会学術集会で発表し、投稿準備をしていたところ、使用したROCK阻害薬Y27632の濃度が高すぎるのではないかという指摘を受け、より低濃度の設定で実験をやり直すこととなった。 妊娠14日目の胎児ラット腎臓をY27632存在下、非存在下で4日間器官培養を行い、尿細管形態、糸球体数、腎サイズを検討した。前年度の10分の1の濃度で実験を行った。平成14年度始めにパイロットスタデイを行ったときにはこの濃度では十分な変化を認めなかったが、今回は腎サイズには有意な変化を認めなかったものの、尿細管の形態には昨年度と同様の変化を認めた。糸球体形成も障害されたが、その程度は昨年度よりも軽度であった。今年度は更に組織学的検討も行った。免疫組織染色では腎間葉細胞の分化の指標であるWT-1の発現減少を認めた。細胞増殖を示すPCNA、アポトーシスを示すTUNELには変化を認めず、ROCK阻害が細胞の増殖には影響を与えないことを再確認した。糸球体形成の障害が尿細管形成障害を介すか間葉細胞への直接作用によるものかを検討するために、脊髄も培養液に添加したが、糸球体形成の程度に変化はなく、ROCK阻害が間葉細胞に直接的な影響を与えていることが確認された。 以上の結果を第17回国際腎臓学会議(Berlin,2003)で発表。現在投稿準備中である。
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