研究概要 |
アロマターゼの遺伝子の転写には組織毎に異なるエクソン1が使用され、それぞれ独立したプロモーターを使用することで組織特異的な発現制御を受けている。特に脳アロマターゼの遺伝子発現と性分化は密接に関係していると考えられる。初代培養細胞を用いた実験では、脳特異的プロモーターは上流200bpまでの領域に強い活性を有し、この中には少なくとも、AroA-I, A-IIそしてBと名付けた3種のシスエレメントが存在している。特にA-II結合活性は、周生期における脳で認められ、成体のそれには検出できなかった。今回、A-IIサイトに変異を導入したトランスジーンを持つTgマウスを用いてレポーター遺伝子の発現を解析することで、そのエレメントの脳特異的発現における役割を調べた。現在までにトランスジェニックマウスを使用したプロモーター解析の結果から、脳特異的エクソン1の上流6.5Kbの領域に脳の領域特異的、時期特異的な発現に必要なエレメントが含まれていることが明らかとなっている。A-IIサイトに変異を導入した6.5Kbプロモーターを持つ5ラインのTgマウスのうち1ラインのマウスにおいては精巣や腎臓で異所性の発現が認められるものの、脳でも視索前野や視床下部腹内側核、扁桃体など内因性アロマターゼの存在する神経核に発現が認められ、A-IIサイトが必ずしも脳での発現に必須のエレメントでないことが示唆された。しかしながら、他4ラインのマウスでは、脳における発現が認められず、逆に精巣などでの異所性の発現が高くなることが明らかとなった。このようにA-IIサイトは脳特異的なアロマターゼの発現に重要であり、欠損により他の組織での発現が増大する。一方で、A-IIサイトが変異しても脳での発現は完全に消失しないことから、プロモーター領域に存在する他のシスエレメントの働きが、脳における発現を相補する可能性も示された。
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