研究概要 |
1.HSLの細胞周期、細胞内シグナリングに関する機能の解析 ラットHSLの安定化発現細胞系wt-HSL,HSL423,Mockを各2系列ずつ確立し,それらを用いて,経時的に細胞増殖率、脂質組成、ジアシルグリセロール(DAG)及びトリグリセリド(TG)の代謝、グルコース取り込み率を検討した。wt-HSL発現細胞は細胞内トリグリセリド、コレステロールエステルは減少し、細胞増殖速度は低下していた。また、フォスフォリパーゼCによる膜リン脂質からのDAGの動員と、インスリン存在下でのグルコース由来DAGの生合成はwt-HSL発現細胞で30-50%減少していることから、HSLは膜由来内因性DAGとグルコース由来de novo DAG両者の代謝を制御していることが判明した。また、HSLの過剰発現がDAG感受性PKCの機能に与える影響を検討するため、PKCの細胞膜へのトランスロケーションを検討した。その結果、高血糖、高インスリン状態で細胞膜のDAG感受性PKC-α,εはHSLの過剰発現により減少した。以上よりHSLは細胞内でグルコース由来及び細胞膜由来のDAGを分解してPKCの細胞膜へのトランスロケーションを抑制し得ると結論づけた。2型糖尿病において認められる高血糖、高インスリン状態は細胞内DAGの蓄積からPKCを活性化させ、糖尿病合併症の発症へと導く。組織HSLの活性化はこの過程を抑制し、合併症の発症抑制に貢献する可能性を本研究は証明した。 2.脂肪分解のメカニズム:HSLトランスロケーション HSL分子の脂肪滴へのトランスロケーション責任部位を同定するため,内因性HSLを発現しない疑似脂肪細胞を作製し、GFPでラベルされたHSL変異体と脂肪滴関連タンパクperilipin, adipose differentiation related protein(ADRP)の遺伝子を導入した。カテコラミン等の脂肪分解刺激を与え、これらの分子の脂肪滴への移行能、相互作用を解析している。
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