ヒト血中paraoxonase(PON1)は高比重リポ蛋白粒子上に存在し、動脈硬化の進展因子である低比重リポ蛋白の酸化を抑制することが知られている。一方、HMG-CoA還元酵素阻害剤(statin)にはコレステロール低下作用以外の抗動脈硬化作用(pleiotropic effect)を有することが注目されており、その1つとして抗酸化作用が推定されている。我々は、平成14年度の研究で、statinがPON1転写活性を亢進させること、メバロン酸カスケード代謝産物であるメバロン酸(MV)、ファルネシルピロリン酸(FPP)を同時添加するとstatinのPON1転写活性亢進作用が解除されることを明らかにした。そこで、本年度は、statinのもつPON1転写活性亢進作用の機序をさらに詳しく検討(A)するとともに、statinがPON1蛋白産生に与える影響についてもあわせて検討した。 (A)statinのPON1転写活性亢進機序についての検討 PON1遺伝子上流プロモーター領域を組み込んだルシフェラーゼ発現ベクターを培養HepG2細胞にトランスフェクションした後、farnesyl transferase阻害剤(FTI-277)、geranylgeranyl transferase阻害剤(GGTI-287)を添加し、PON1転写活性に与える影響をルシフェラーゼアッセイにて検討した。 1.FTI-277添加; 用量依存性にPON1転写活性は亢進し、FTI-277 20μMでは、Pitavastatin 50μMと同程度のPON1転写活性亢進を認めた 2.GGTI-286添加; PON1転写活性に影響は認められなかった 以上の検討と平成14年度の研究結果より、HMG-CoA還元酵素阻害剤のもつPON1転写活性亢進作用の機序は、MV、FPPを介し、Rasシグナルと関係していることを証明した。 (B)statinのPON1蛋白産生に与える影響についての検討 培養正常ヒト肝細胞をpitavastatinで24時間刺激した後、PON1蛋白産生をウエスタンブロッティング法にて検討した。 1.pitavastatin 0.01μMから1μMの濃度で、PON1蛋白産生は亢進していた 以上の検討にて、statinが培養正常ヒト肝細胞にてPON1蛋白産生を亢進させることを証明した。
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