研究概要 |
担癌患者における体外循環を用いた消化器手術の周術期サイトカインおよびTh1/Th2バランスの変化を解析し、これらの術後再発との関連を明らかにするべく研究を行っている。現在まで下大静脈腫瘍栓を合併した肝細胞癌に対して体外循環を併用し切除した1症例、および横隔膜浸潤を伴う胆管細胞癌に対して体外循環を用いず肝切除した1症例の検討を行った。 体外循環施行例ではIL-6,IL-8値は手術開始時より上昇傾向を示し、手術終了時まで増加したが、IL-8は循環後に一時的に低下した。INF-γおよびIL-10は体外循環後にのみ著明な増加を認めた。TGF-β1は体外循環後に低下した。体外循環を用いず肝切除しえた例ではTh1/Th2バランスは手術開始直後よりTh2にシフトし、その傾向は術後1日目においても継続していた。INF-γは周術期を通して測定下限以下であり、IL-10は閉腹時において上昇傾向を示した。TGF-β1は肝切除後より閉腹時まで低下していたが術後1日目には術全値の約4倍まで上昇した。体外循環後に特異的な変化を示したのは、INF-γおよびIL-10であった。INF-γは、いわゆるTh1型免疫応答に必須の役割を果たし、TNF-α産生の増強、マクロファージの殺菌活性化の誘導に関与する。一方、IL-10は強力な抗炎症性サイトカインであり、マクロファージからの炎症性サイトカイン産生の抑制やTh1型免疫応答の抑制に働く。体外循環後に惹起された炎症性メデイエーターに対するフィードバックシステムのひとつとして抗炎症性サイトカインのIL-10が誘導された可能性が考えられる。体外循環後に低下したTGF-β1は癌細胞をアポトーシスに誘導する作用を有すると考えられている。つまり、TGF-β1の低下は癌細胞の発育に促進的に働いたとも考えられる。現在までの検討により、体外循環後のサイトカイン変動が担癌状態における患者の腫瘍免疫反応に不利な状態を作り出している可能性があると推察されたが、今後、更に症例を重ね検討する必要があると思われる。
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