ヒト大腸癌組織と培養大腸癌細胞を用い、dihydropyirmidine dehydrogenase(DPD)タンパクとDPD mRNAの発現と局在を、免疫組織化学染色およびin situ hybridization法にて検討した。大腸癌手術症例10例に対して、術前に5-FU系抗癌剤を投与し、腫瘍組織内の5-FU濃度を測定した。同症例のパラフィン包埋組織上では、DPDモノクローナル抗体(KM-1915、KM-1919)を用い、DPDタンパクの発現が確認された。連続切片上でのin situ hybridizationでは大腸癌細胞内にDPD mRNAの発現を認めた。腫瘍内5-FU濃度とDPDタンパクおよびmRNAの間に負の相関関係が認められたことから、DPD量が5-FU系抗癌剤の作用減弱に関係していることが考えられた。 今回施行した、免疫組織化学染色的手技を用い、大腸癌における癌細胞の増殖についても検討した。細胞増殖因子の一つである線維芽細胞増殖因子(KGFR)と細胞増殖マーカーKi-67の発現につき検討したところ、両者の間には「ずれ」が生じた発現がみられた。これは癌細胞の多段階発癌、および「癌の分化」を示唆するものであった。 今後、モルフォリノアンチセンスオリゴ、siRNAなどによる、DPDあるいはKGFRの産生抑制により、既存抗癌剤の作用増強、さらには新規分子標的化学療法の可能性が示唆された。
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