自己の血管壁細胞と生体吸収性ポリマーを用いた人工血管を開発し、人工血管内腔面に生体血管類似の血管壁構造が再構築するにつれ、架体は生体に吸収され、その後は成長に伴い、血管径の自己制御が期待される新しい小児用人工血管を開発してきた。 雑種成犬を用い、外頚静脈より内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞を採取し培養した。人工血管は内径5mm、長さ5cmの生体吸収性ポリマー(poly-L-lactideとpoly-caprolactoneの共重合体を基質としたpoly-glycolic acid)で作製したものを、さらに、吸収性のpoly-glycolic acidと非吸収性のpolypropyleneで作製したメッシュでらせん状に補強したものを用いた。次いで、その人工血管上に線維芽細胞層/平滑筋細胞層/内皮細胞層をin vitroで人工細胞外マトリックス(TypeI collagen)を用逐次的に構築し、細胞を採取した同一犬に移植した。 移植後2週間で摘出したグラフトの光顕所見では、新生中膜に、円周方向へ配向した多数の平滑筋細胞と線維芽細胞を認めた。人工血管の基質部分はほぼ吸収されており、らせん部分のみが残存していた。また、移植後8週間では、層状のエラスチンの構築を認めた。透過電顕では2週では合成型平滑筋細胞が多数認められ、8週では収縮型平滑筋細胞が多数認められた。新生中膜の壁圧は2週で329±133μm、8週で99±28μmであった。しかし、血管径が8週間で6.5mmへと拡大傾向にあり、現在、さらに遠隔期における血管壁の状態を追跡中である。 本グラフトは移植後早期に人工血管内腔面に生体血管類似構造が形成されるため、人工血管が生体に吸収された後においても、生体血管と同様の構築および制御過程を辿り、また、らせん状に補強された素材により、過度の拡張を防ぐことができる可能性があることが示唆された。
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