1.研究目的 現在種々の大動脈弁疾患対して用いられている各種人工弁には耐久性、抗凝固療法の継続、拒絶反応などの欠点が指摘されている。本研究では組織工学を用い、異種細胞外構築を使用した大動脈弁グラフトを作成し、その有用性および臨床応用の可能性を検討している。今年度は昨年度に確立した異種細胞外構築用いた大動脈弁グラフトを作成し、同グラフトをイヌの腹部大動脈に移植し、形態学的、組織学的検討を行った。 2.方法と結果 健康ウサギより大動脈弁付き動脈グラフトを採取し、同グラフトを0.05%トリプシンで48時間incubateし、異種大動脈弁グラフトを作成した。同グラフトをビーグル成犬の腹部大動脈に間置するように移植した(n=12)。移植例12例のうち4例は術後早期にグラフトの破裂により出血死した。5例は術後1ヶ月後に儀死せしめ形態学的、組織学的検討を行った。形態的にはグラフトは移植前に比べ拡大傾向にあった。グラフト内部は一部内皮化しており同部には血栓形成は認めなかった。組織学的には動脈壁の内膜側に内皮細胞の形成および動脈壁表層への線維芽細胞の侵入を認めた。中膜は膠原繊維からなっており線維芽細胞などの侵入は認めなかった。動脈壁に炎症細胞浸潤は認めなかった。電子顕微鏡においてグラフトの内膜側には未成熟な内皮細胞の形成を島状に認めた。残りの3例については遠隔期成績(3ヶ月)を検討する予定である。 3.まとめ 以上の結果より異種大動脈弁グラフトは高圧系における耐圧性を持ち、生体内で拒絶反応などなく内皮化され抗血栓性を有するようになると考えられた。今後は遠隔期における形態学的、組織学的検討を行うと共に、ビーグル犬の大動脈弁位への移植を試みる予定である。
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