研究概要 |
[目的]パーキンソン病の諸症状に対する、視床下核(STN)の高頻度電気刺激術の作用機序については解明されていない。パーキンソン病の症状は、STNやその興奮性入力を受ける大脳基底核の出力核の過剰な活動に起因すると考えられている。そこで本研究において、STNの高頻度電気刺激に対する大脳基底核の出力核の応答について脳スライス標本を用いて解析した。 [方法]生後2〜3週齢のラットを用い、視床下核と黒質網様部(SNr)を含む傍矢状断の脳スライス標本を作成した。STNのトレイン電気刺激(0.1ms duration、<100μA,5 train、50〜200Hz)に対するSNrの細胞の応答をホールセル・パッチクランプ法を用いて記録した。 [結果]Nakanishiらの報告をもとにして、電気生理学的にSNrのGABAニューロンの同定を行った。Action potentialのdurationが比較的短く(およそ1ms)、10Hz以上の自発発火活動を示し、depolarizing current pulseによって更に高頻度の発火活動が誘発されspike accommodationしない、またhyperpolarizing current pulseによってh電流が見られない、以上の性質を持つものをGABAニューロン(n=45)と判定した。 次にSTNの単発電気刺激に対するSNrニューロンの応答をvoltage clamp法で記録し、刺激後に早期のEPSC(excitatory postsynaptic current)とそれに続くIPSC(inhibitory postsynaptic current)の2つの成分がoverlappingしていることを確認した。これをもとにEPSCとIPSCのpeakにおける電流-電圧曲線をプロットすると、それぞれの反転電位がおよそ0mV、-60mVであることから、グルタミン酸電流、GABAA電流であることが推測された。更に、視床下核の電気刺激後に見られるIPSPの成分がGABAA受容体の拮抗薬の投与によって消失し、IPSPはGABAA電流であることを確認した。 STNの5連発電気刺激に対するSNrニューロンの応答を、currnt clamp法で記録した。刺激頻度が高くなるにつれて、特に130Hz以上の高頻度刺激で、action potentialが追随することが出来なくなり、かつover shootまでの閾値に達しないでEPSPに留まる様になった(Fig.2)。更に、GABAA受容体の拮抗薬の投与によって、action potentialが高頻度刺激に対して追随するようになった。 [結諭]STNの連続刺激は、大脳基底核の出力核の応答を刺激頻度依存性に抑制する。STN-SNrシナプスは興奮性投射であるため、STNの連続刺激は他の抑制性機序を積極的に作用させることによって効果を発現することが示唆された。
|