研究概要 |
下垂体前葉細胞の機能分化について、現時点ではuniversalな転写因子であるPtx1を中心として、Pit-1が協調してGH-PRL-TSH産生細胞に、NeuroD1/β2が協調してPOMC(ACTH)産生細胞に、そしてSF-1/Ad4BPが協調してFSH/LH産生細胞に分化すると推測されている。これらの転写因子は下垂体腺腫にも発現しており、特にPtx1の蛋白レベルでの発現については我々がMod Pathol 13,1097-1108,2000に初めて報告した。今回以上に述べた転写因子を中心に、下垂体腺腫の機能分化に関わる転写因子、各種受容体の発現を統一した形で検討し、さらにそれぞれの協調作用についても併せて研究することとした。本年度は手術によって得られた下垂体腺腫サンプルを対象とし(最近5年間の300症例)、検体を4%parafomaldehydeにて固定し、パラフィン切片とした。これらについて種々の転写因子の発現を検討した。検討した転写因子はPtx1、NeuroD1、SF-1、Pit-1、GATA-2であり、ABC法にて免疫染色を行った。すると、これらの症例の中で、通常のcell lineageを越えて発現を示す症例がいくつか認められ、我々はその1例を本年度Mod Pathol 15:1102-1105,2002に報告した。すなわちこのケースは、身体所見、内分泌学的にCusing病を呈していたにもかかわらず、免疫組織学的検討にてACTHのみならずGHが同一細胞に発現していた。さらにin situ hybridizationによる検索でもGHmRNAの発現が確認され、GHが単に貯蔵されているのではなく、産生されていることが示された。また、転写因子についてもPtx1、Pit-1、Neuro D1がすべて陽性であり、下垂体腺腫が通常のcell lineageを越えて複数のホルモン産生を引き起こす原因は転写因子の発現様式の乱れによるものが示唆された。来年度は、以上のような下垂体細胞の機能分化の原則と反する症例を、さらに深く検索するとともに、さらに症例を増やし、各種転写因子・受容体の発現に基づいた新しい下垂体腺腫の機能分類を確立する予定である。
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