研究概要 |
現在、下垂体前葉細胞の機能分化を考える上で、universalな転写因子であるPtx1を中心としてPit-1が協調してGH-PRL-TSH産生細胞に、NeuroD1/β2が協調してPOMC産生細胞に、そしてSF-1/Ad4BPが協調してFSH/LH産生細胞に分化すると推測されている。すなわち機能分化は、前述の3つの,lineageに分かれていると推測される。また、これらの転写因子以外にもRpx、Prop-1、Lim3、Egr-1といった新たな転写因子の存在がクローズアップされている。本年度はこの中でもEgr-1に注目し、検討を行った。このEgr-1は、元来血管損傷時に発現する転写因子として注目されていたが、近年下垂体腺腫の機能分化においても重要な役割を果たしていることが示唆されている。今回、我々は非機能性下垂体腺腫54例につき、免疫組織化学、RT-PCR法、Western blotting法を用い検出を行った。また同時に他の下垂体前葉ホルモン、あるいは転写因子としてLim3,Ptx1,Prop-1,GATA-2,NeuroD1,SF-1/Ad4BP, DAX-1、膜受容体としてGHRH-R, GnRH-Rの検出も施行した。結果はすべての検出方法で約60%の症例にEgr-1の発現が認められた。また、免疫組織学的に二重染色を行うと、LHβ,FSHβ,αSUとの強い相関性を示した。このEgr-1は、他の転写因子や膜受容体の発現とも関連性を示し、特にゴナドトロピンと関連の深いLim3,SF-1/Ad4BP, GnRH-Rについては同時に発現する症例が多数認められた。これらの結果より、非機能性腺腫は高い比率でゴナドトロピンサブユニット発現の分子機構を持ち、Egr-1がその機構に強く関与していることが示唆された。
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