研究概要 |
昨年度家兎の趾屈筋腱を用いて腱縫合後の経時的組織学的変化および周囲組織との癒着に関するコントロール実験を行い、家兎趾屈筋腱を切離縫合術後1,2,3,6週間の所見から腱修復の組織学的変化の傾向をみた。術後2-3週間における腱周囲の肉芽形成をコントロールすることが重要と思われ、炎症性瘢痕形成に対して抑制的に作用する物質を2-3週間にわたって局所に滞留させることで癒着による拘縮を軽減できると見込まれた。関節運動や腱滑動等に重要な役割を果たしかつ抗炎症作用を有するヒアルロン酸に注目し、これを膜状固形物に調整した(HA膜)。ヒアルロン酸は本来生体ないに存在する物質であり、またHA膜は約2週間で分解吸収されるため安全性の上からも有用であると考えられた。家兎趾の腱切断、縫合の後そのまま閉創したコントロール群と腱縫合部位にHA膜を留置したHA膜群を比較することによりHA膜の癒着軽減効果を観察した。1週のコントロール群で腱と周囲組織に間隙が無かった一方、HA群では腱縫合部が溶解しつつあるHA中に浮遊する状態であった。2,3週では両群ともに腱端間が肉芽組織で連続する所見を認めたがHA群で連続部の肉芽が細くその距離が長い傾向を認め、HA群の一腱に断裂を認めた。腱表面と滑走床の間には両群ともに活発な肉芽の増殖がみられた。6週で腱端間および腱周囲の肉芽において細胞成分が減少した。両群に明らかな差は見られなかった。HA膜が2週間は縫合部周囲に存在し、その後吸収されたことから物理的バリアーとして癒着形成の抑制に有効である可能性が示された。しかし腱縫合部を覆う範囲や留置するHAの量が過剰な場合には腱への拡散による栄養供給の面から癒合に不利な状況を招来する可能性があり、またHA膜の分解吸収過程において炎症が惹起される危険を伴うと考えられた。
|