われわれは、これまでにマトリゲルを用いたin vitro invasion assay等を用いて基底膜浸潤における分子機構を明らかにしてきた。従来の研究成果を発展させ、腫瘍細胞の運動能の解析のもと、運動に関与する遺伝子発現の制御による浸潤・転移抑制法の実用化の道を探ることを目的としている。腫瘍壊死因子(TNFα)により2種類のヒト骨肉腫細胞株において基底膜浸潤能が亢進することを確認してその分子機構について検討し、報告したが、今回はその普遍性を検討するために、新たにヒト骨肉腫より樹立された細胞株を5種入手し、それらの基底膜浸潤能について検討した。これら7種のヒト骨肉腫細胞株ではin vitro invasion assayにおいて各々異なった浸潤能を有していることが確認された。また、基底膜浸潤において重要とされる細胞外基質への接着、基質分解、運動能の各段階について検討したところ、各々異なった表現型を示すことが確認された。さらに、これら7種のヒト骨肉腫細胞株の基底膜浸潤能に対するTNFαの効果を検討したところ、細胞によって反応は様々であったが、全ての細胞で浸潤能が亢進することが確認された。接着、基質分解、運動に関しても種々の反応を示すことが確認されたが、これら3段階の中で細胞の運動が基底膜浸潤に最も相関していると考えられた。これらの現象は、TNFαと同様に炎症性サイトカインに属すinterleukin-1(IL-1)においても確認された。現在、これらの細胞における運動能、基底膜浸潤能を規定している分子機構の解析中であり、今後その分子を標的とした細胞の運動、浸潤の抑制を試みる予定である。
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