われわれは、これまでにマトリゲルを用いたin vitro invasion assay等を用いて基底膜浸潤における分子機構を明らかにしてきた。従来の研究成果を発展させ、腫瘍細胞の運動能の解析のもと、運動に関与する遺伝子発現の制御による浸潤・転移抑制法の実用化の道を探ることを目的とした。まず、腫瘍壊死因子(TNFα)により7種類のヒト骨肉腫細胞株において基底膜浸潤能が亢進することが確認された。さらに、基底膜浸潤に重要な3つの段階である接着、基質分解、運動におけるTNFαの影響を検討したところ、すべての段階が種々の程度に促進されることが確認された。また、これら3つの段階の中で細胞の運動が基底膜浸潤に最も相関していることが示唆された。われわれはTNFαによって亢進する運動能において転写因子であるNFκBを介した分子機構の関与を認めることを報告した。そこで、骨肉腫細胞においてTNFαにより発現が亢進し、かつその発現にNFκBの活性化が関与する遺伝子の同定を試みたところ、そのひとつとしてcyclooxygenase(COX-2)の関与が示唆された。COX-2の下流にある分子のひとつであるプロスタグランディンE2もこれらの骨肉腫細胞においてTNFαにより亢進する運動能、基底膜浸潤能に関与する可能性が示唆された。
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