外傷や腫瘍切除の際に生じる骨欠損に対しては、主に自家骨移植が行われているが、採骨部の侵襲や採骨量の限界などの問題がある。近年、様々な疾患により生じる骨欠損の修復に、リン酸カルシウム系セラミックスの人工骨が用いられるようになったが、骨欠損が大きい場合は、人工骨単独での修復は困難である。我々は、これまでにオリンパス光学工業との共同研究で吸収性の人工骨(β-TCP)を開発し、その有用性を報告してきた。さらに、その顆粒体と生体吸収性物質であるヒアルロン酸溶液との複合体が前記の人工骨と同等の骨伝導能を有し、injectableなものであることを見い出している。 本研究は、骨形成能を有する種々の成長因子と骨伝導能を有する人工骨とヒアルロン酸とを用いて複合体にし、この骨補填材(骨補填材A)を骨欠損部ならびに骨折部に投与することにより、骨形成ならびに骨折治癒過程の検討を行った。 その結果、海綿骨欠損部にβ-TCPをブロック状ならびに顆粒状にしたものを充填すると、術後2週で、すでにβ-TCPは幼若骨梁に取り囲まれ、同時に吸収される像が観察された。術後8週では骨孔部はほとんど新生骨に互換されていた。このことから、β-TCPはブロック状、顆粒状いずれにおいても骨形成を促進し、最終的に骨組織に置換されることが判明した。また、3.5%ヒアルロン酸は容易に凍結乾燥したbFGFを溶解し、その作用発現を阻害することなく、さらに高い粘性を有するため、サイトカインを局所に留める担体に成りうることがわかった。以上の結果から、顆粒状β-TCPと高い粘性を有する35%ヒアルロン酸の複合体は、ペースト状でinjectableなものであり、新しい骨充填材かつサイトカインの担体として臨床応用される可能性が示唆された。
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