研究概要 |
グルタミン酸受容体は中枢神経系の主要な興奮性シナプス伝達を担う受容体であるばかりでなく,脳虚血,低酸素脳症,ニューロパシックペインとも密接なつながりがあることが知られている.この受容体の中で,シナプス後膜に発現しているAMPA受容体及びNMDA受容体のサブユニットをコードするcDNAを組み込んだアデノウィルスベクターを作製し,ラット褐色細胞腫由来の細胞株であるPC12細胞に感染させることにより機能的受容体を発現させ,ホールセルパッチクランプ法により麻酢作用を持つキセノンがAMPA受容体及びNMDA受容体にどのような効果を及ぼしているか,電気生理学的な解明を検討している.このうちAMPA受容体に対する効果は,昨年までに検討し,キセノン投与が同受容体に影響を与えないことを確認している.NMDA受容体については,同受容体のサブユニットであるNR1とNR2B奪共発現させた細胞において,キセノンは天然型NMDA受容体応答を70%抑制することを既に確認している.以上よりキセノンのグルタミン酸受容体に対する効果はAMPA受容体とNMDA受容体との間に大きな解離があり,さらにNMDA受容体への効果が臨床使用濃度のキセノンで大きく抑制されたことから,キセノン麻酔の効果部位の候補としてNMDA受容体は重要であると考えられる.それではこのNMDA受容体のどこにキセノンが作用しているのか.本年度は,このNMDA受容体サブユニットのマグネシウムブロックの効果部位であるQRN siteに点変異導入した変異型NMDA受容体を発現させ,キセノンの効果を確認した.同部位は,静脈麻酔薬の一種ケタミンの効果部位としても知られている.その結果,変異型NMDA受容体ではキセノンはその受容体応答を12%抑制することが判明した.従って,キセノンのNMDA需受容体応答抑制機序のうち,82%はQRN siteが関与しているものと考えられる.
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