本研究は、抵抗および容量血管である腸間膜動・静脈を用い、静脈麻酔薬(プロポフォール)がいかなる機序で微小循環系の血管平滑筋を弛緩させるのかを、NO-cGMP系に特異的な阻害薬(L-NAME、ODQ、cGMPS)およびPGI_2-cAMP系に特異的な阻害薬(SQ22536、Rp-cAMPS)を用い、in situで血管平滑筋静止膜電位を測定することにより明らかにする。ペントバルビタール基礎麻酔下に、雄SDラットの大腿動・静脈にカニュレーションした(動脈圧測定および静脈路確保)。呼気ガスをモニターし、ベンチレーターにて呼気炭酸ガス濃度が一定となるように人工呼吸した。開腹後、実体顕微鏡下に腸間膜動・静脈を剥離した。実験チャンバー上に剥離した腸間膜動・静脈を固定し、PSS(physiological salt solution)を血管外から灌流した。ガラス管微小電極を動・静脈壁に刺入し、微小電極増幅器を用いて静止膜電位を測定、記録した。プロポフォールを大腿静脈内へ持続注入し、NO-cGMP系に特異的な阻害薬であるL-NAME、ODQ、cGMPSまたはPGI_2-cAMP系に特異的な阻害薬であるSQ22536、Rp-cAMPSのいずれかを血管外から適用し、その後静止膜電位を測定した。NO-cGMP系阻害薬およびPGI_2-cAMP系阻害薬はいずれも静止膜電位を有意に脱分極させた。プロポフォールは静止膜電位を有意に過分極させた。このプロポフォールによる過分極をNO-cGMP系阻害薬は有意に抑制したが、PGI_2-cAMP系阻害薬は抑制しなかった。これらの結果から、プロポフォールによる血管平滑筋静止膜電位の過分極および血管拡張作用にNO-cGMP系が関与するが、PGI_2-cAMP系は関与しないことが示唆された。
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