脳低温療法により、重症頭部外傷や心肺機能停止等の脳障害に対し脳保護効果が期待されるが、本療法は生体を低温状態に曝すため、免疫機能低下による易感染性が危惧される。今までに、健常人末梢血単核球(PBMC)の軽度低温(33℃)培養が、37℃での培養と比較してINF-γとIL-10の産生をmRNAの転写レベルから抑制することを見出し、低温下におけるPBMCからのサイトカイン産生はインバランス状態であることを報告してきた。 そこで本研究では、軽度低温培養が免疫担当細胞に及ぼす影響を更に調べるため、健常人単球を用い、炎症性と抗炎症性サイトカインおよび一酸化窒素(NO)産生量を37℃培養と比較した。その結果、低温条件下(33℃、24時間)では、IL-1β、IL-6、TNF-α、IL-12p70の産生とTNF-α/IL-10、IL-12p70/IL-10の産生比が増加した。NO産生は、低温培養下では影響を受けなかった。よって、軽度低温下では、単球からのサイトカイン産生も炎症性反応優位なインバランス状態であり、免疫機能の抑制状態とはならないことが更に支持された。よって、サイトカイン動態より見ると、軽度低温中の二次的感染に対して生体防御反応は作用しうることが示唆された。 また、脳低温療法による脳保護作用において、脳内サイトカインの関与を明らかにするため、脳内の免疫担当細胞であるマイクログリアをラット新生仔より分離し、72時間まで軽度低温(33℃)培養し、サイトカインおよびNO産生量を調べた。その結果、低温培養下では、37℃と比較してIL-6産生は変化せず、IL-10並びにNO産生が顕著に低値となった。よって、本療法による脳保護作用の一機序として低温下によるIL-10およびNO産生の抑制が関与している可能性が考えられた。
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