脳浮腫の発生についてはKlatoらにより、vasogenicな機序・cytotoxicな機序の存在が示唆されているが、その実際の水の移動経路については明確でないままである。最近、脳内の水移動においてはグリアに存在する水チャンネルであるアクアポリン(AQP)が重要な働きをしていることが報告されている。脳低温療法は臨床的に脳浮腫を軽減する効果があることが多く報告されている。しかし、脳浮腫軽減の機序についても不明な点が多い。従って、脳浮腫発生とその治療法としての脳低温療法を分子生物学的に調査した。 低酸素負荷によりAQP-4、9の全ての発現が増強することを確認した(Yamamoto et al. Mol.Brain Res.90(2001)26-38)。 ラット培養アストロサイトに低酸素負荷をかけ、その後、人体が耐え得ると考えられる32℃の低温状態とし、AQPのmRNA・蛋白質の発現の変化をそれぞれ、RT-PCR法・western blot法により観察した。 脳室周囲の脈絡膜組織に局在していることから、脳浮腫発生・軽減に関係が深いとされているAQP-4に最も着目した。アストロサイトのAQP-4の発現量は低酸素負荷により増加した後32℃の低温により、mRNA・蛋白質とも4時間後には有為に低下し、12時間後にはcontrolの約2倍まで増加した。 AQP-9は低酸素:負荷・低温維持中、mRNA・蛋白質とも継続して有為に低下していた。 (Yoshihito et al. Neurosci Res.47(2003)437-44)。 低酸素負荷により増加したAQPの発現がアストロサイトを低温維持したことにより減少したことは、低酸素脳症における脳低温療法の脳浮腫軽減の機序のひとつと考えられる。
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