急性肺傷害・ARDSにおいて、好中球及びマクロファージが重要な役割を果たしているのは明らかであるが、急性肺傷害が発症する機転や遷延する機序は、不明な点が多い。急性肺傷害・ARDSの発症・遷延には、アポトーシスの制御の破錠が関連しているという仮説で実験を進めた。過去の実験において、Fas/FasLの過剰な発現が、肺傷害の一因となっていることを明らかにしてきたが、lprマウス・gldマウスの同モデルにおいて、肺傷害はむしろ強くなった。肺胞に遊走した活性化好中球のアポトーシスの遅延を認め、それが大きな原因であると考えられた。肺傷害の制御には単純にFas/FasL系を抑制しても無効であり、時期によって肺傷害に促進的に働く場合と、炎症を終結させることにより抑制的に働く場合があると推定された。平成15年度は、IL10投与の効果をまず実験した。IL10投与は、他のショックモデルにおいて、臓器傷害を抑制することが報告されているが、本実験系においても、肺傷害は抑制された。しかし、それはアポトーシスの抑制によるものではなかった。次に、caspase阻害薬を時期を変えて投与し、そのアポトーシス抑制効果、肺傷害抑制効果を実験した。心筋梗塞モデルなどにおいて、caspase阻害薬により、臓器傷害改善効果があると報告されているが、それとは異なり、肺傷害抑制効果はあまりなかった。去年の推定通り、アポトーシスは炎症終結に関しても大きな役割を果たしており、それを阻害することにより、炎症の遷延を招く等の機序により、アポトーシス抑制が、全て臓器傷害に結びつくものではないと、推定された。今後、どの時期に、どのようなアポトーシス抑制が、臓器傷害抑制をもたらすかが検討課題である。
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