臨床的に骨盤外科手術や骨盤外傷に伴う海綿体の血流低下が、勃起不全を引き起こす事はよく知られた事実である。今回、兎の総腸骨血管を部分閉塞する事で陰茎海綿体虚血モデルを作成し、上記のメカニズムを検討。虚血群では、in vivo実験で、骨盤神経の電気刺激誘発による海綿体内圧の上昇は低下し、また、摘出した海綿体組織の電気刺激及び内皮依存性の弛緩反応は減弱した。同反応は、一酸化窒素(NO)を介する反応であり、NO産生量の指標であるサイクリックGMP産生量の低下も認めた。NO合成系の低下の要因として、内因性NO合成酵素(NOS)阻害物質であるL-NMMA、ADMAの蓄積を血清中及び海綿体組織中で検討した。血清中では有意な変化は認めず、組織中への著明な蓄積を認めた。同物質の外因性投与は、正常群のin vivo及びin vitroの反応を濃度依存性に抑制した。上記より、虚血に伴う勃起不全にL-NMMA、ADMAの蓄積が関与する可能性が示唆された。同物質は、塩基性アミノ酸トランスポーターを介して、NOSの基質であるL-アルギニンと競合して細胞内にはいるため、L-アルギニンの投与が、同物質の蓄積及び機能障害を防ぐか検討したところ、有意な改善所見を得た。また、L-NMMA、ADMAは細胞内では、DDAH(dimetylarginine dimethylaminohydrolase)酵素によって、分解されるため、同酵素活性を測定したところ、虚血群では有意な低下を認めた。また、NOSの酵素活性は、虚血早期には有意な上昇をしめしたが、その後経時的に低下した。上記より、虚血に伴う勃起不全に内因性NOS阻害物質であるL-NMMA、ADMAの蓄積が関与し、その要因としてDDAH活性の低下が関与している可能性が示唆された。また、アルギニンの投与は、同物質の蓄積を抑制し、機能改善に寄与する可能性が示唆された。
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