研究概要 |
ホルモン不応性前立腺癌に対する遺伝子導入法としてキャピテーションを介した超音波遺伝子導入法に着目した。本法は介在する組織にダメージを与えることなく部位選択的遺伝子導入が期待できるという利点の反面、その低い効率が問題となっている。我々は効率の向上を目的に超音波遺伝子導入の最初の障壁である細胞膜の性質を改変し遺伝子導入の増強が可能かどうかを検討した。超音波造影剤(Levovist)の併用下に、細胞膜の流動性を上げる薬剤として知られている局所麻酔剤(Lidocaine)、あるいは膜の流動性を上げ、さらにキャピテーション発生閾値の低下が期待できる温熱を併用し導入効率の増強効果を検討した。in vitoではホルモン不応性ヒト前立腺癌細胞株PC-3を脱気したEMEM培地に浮遊させ、Levovist(10mg/ml)存在下(コントロール)にLidocaine(0.01〜1.0mM)を添加し超音波(1MHz、焦点ピーク圧0.49MPa、20秒間)を照射した。さらに温度変化(7,20,37,40,42,44℃)による影響についても調べた。レポーター遺伝子にはLuciferaseあるいはGreen Fluorescence Protein (GFP)のcDNAを挿入したプラスミド(10μg/ml)を用い、照射20時間後、導入効率をルミノメーターあるいは蛍光顕微鏡で観察した。なお、温熱、Lidocaineによる膜流動性の影響については蛍光偏光度を、超音波キャピテーションの指標であるOHラジカル発生についてはESRスピントラップ法を用い評価した。in vitroにおいてリドカイン添加により濃度依存的な導入効率増強が確認され1mMではコントロールの約18倍の増加を認め、また膜流動性も濃度依存性に上昇を認めた。なおリドカインのキャピテーションへの増強効果は認められなかった。温熱に関しても42℃では37℃と比べ約19倍の増強効果が得られた。温熱は膜流動性の上昇の他、OHラジカル産生の増加が確認された。両者を用いた超音波遺伝子治療の臨床応用効果が期待された。
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