近年、超音波を用いた遺伝子導入法が開発され、治療への応用が注目されるようになった。加えて、現在臨床で使用されている診断用超音波造影剤(マイクロバブル)と治療的超音波エネルギーを併用することでさらに遺伝子導入の効率が高められることが判明し、ますますその可能性に期待が寄せられている。この手法は極めて簡易で、組織障害が少なく、安全な遺伝子導入法として臨床応用が期待されている。しかしマイクロバブルの併用により初期の報告より飛躍的に導入効率が増したものの、ウイルスベクターと比較すると効率の低さは否めない。本法には効率増強のため、更なる改良が必要である。我々は、遺伝子導入の際、影響を受ける側である細胞膜の形質変換に注目した。膜の修飾により、超音波による小孔の形成を容易にしたり、小孔の修復を促進したりする効果を期待し実験を行った。具体的には、超音波造影剤Levovistの存在下に、膜の流動性を上げることが知られている局所麻酔剤リドカインや温熱を用い、超音波遺伝子導入に対する影響を検討した。その結果、超音波により導入される遺伝子発現が、リドカインの濃度依存性に、また温度依存性に上昇することが確認され、リドカイン1mMを添加した場合、あるいは44℃での遺伝子導入効率がそれぞれ最大効果を示し、37℃でリドカインを添加しない場合と比べて、20倍近くの上昇が認められた。遺伝子導入の最初の障壁である細胞膜を標的にするという新たな考え方を示した。
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