妊娠週数間や正常・疾病間の差異を検討するために、妊娠各時期における正常胎盤と妊娠中毒症における胎盤を採取しwestern blotにてHIF-1αタンパクの発現を調べた。同時にrealtime RT-PCRやwestern blotにてTERT・TGF-β3のmRNAとタンパクの発現を調べ、HIF-1α発現との相関性をみたところ正の相関を示した。胎盤よりトロホブラストを分離し20%酸素分圧条件下および1%酸素分圧条件下それぞれにて培養し、mRNAとタンパク質を抽出後realtime RT-PCR・westetn blotを行なったところ、HIF-1α・TGF-β3・TERTの発現は低酸素により増強することが分かった。HIF-1αが本当にTGF-β3やTERTの発現を誘導するか否かを調べるため、HIF-1αのantisense oligonucleotideを合成し低酸素下で培養した絨毛癌細胞株にトランスフェクションを行なった。これによりHIF-1αの発現は強制的に抑制されたが、その結果TGF-β3およびTERTの発現も抑制され、低酸素によるTGF-β3・TERTの発現亢進はHIF-1αを介することが分かった。HIF-1αが転写レベルでTGF-β3・TERTの発現を誘導するか否かを検討するため、TGF-β3・TERTそれぞれのプロモーター領域を組み込んだルシフェラーゼプラスミドを作製した。このプラスミドとHIF-1(HIF-1α+ARNT)の発現ベクターを絨毛癌細胞株にトランスフェクションしルシフェラーゼアッセイを行ったところ、HIF-1の強制発現はTGF-β3・TERTのプロモーターを活性化することが判明した。また、TGF-β3・TERTそれぞれのプロモーター領域のHIF-1結合領域(HRE)を変異させたルシフェラーゼプラスミドを作製したが、この場合HIF-1の強制発現はTGF-β3・TERTの変異プロモーターを活性化しなかった。結合領域と推定された部位の二重鎖oligonucleotideを合成し、HIF-1タンパクとともにゲルシフトアッセイを行い、HIF-1とTGF-β3・TERTそれぞれのプロモーター領域との結合能を確認した。TGF-β3・TERTのプロモーター上の変異HREを使用した場合、HIF-1との結合は認められなかった。以上より、胎盤においては低酸素はHIF-1の活性化を介してTGF-β3・TERTの発現を亢進することが判明した。
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