IL-2レセプターβ鎖を過剰発現するTg2Rβマウスでは、メスの繁殖能力が非常に低いことが分かった。つまり、Tg2Rβマウスのオスと交配させた野生マウスのメスは、ほぼ100%が妊娠・出産し、新生仔数は6.7匹であったのに対し、Tg2Rβマウスのメスは15.4%しか出産せず、新生仔数も3.5匹と非常に少なかった。Tg2Rβマウスの発情周期を解析すると、野生型マウスに比べて発情期が短く、発情後期が長いことが分かった。また、40週齢のTg2Rβマウスでは80%以上の割合で子宮内膜に増殖性の病変が認められた。一方、同じ週齢の野生型マウスでは子宮内膜に増殖性病変は全く認められなかった。Tg2Rβマウスの子宮では子宮腺が過剰増殖し、嚢胞性増殖症の形態をとっていた。免疫組織学的手法で細胞増殖能について解析すると、腺上皮細胞に強い陽性反応が認められた。腺上皮細胞の異型化はあまり見られなかったが、粘膜上皮の一部に扁平上皮化生が認められた。しかしながら、Tg2Rβマウスにおいても10週齢の若い個体では、子宮内膜に増殖性病変は認められなかった。 IL-2レセプターβ鎖の過剰発現は性ホルモン動態を混乱させ、発情周期や子宮内膜の増殖能に強く作用し、Tg2Rβマウスの繁殖能力を低下させていることが示唆された。現在Tg2Rβマウスにおけるエストロジェン、プロジェステロンの変化について解析中であり、同時にIL-2レセプターβ鎖の下垂体・卵巣における局在についても調べている。次年度は、不妊性疾患におけるIL-2レセプターβ鎖の関与について考察を与えたい。また、IL-2レセプターβ鎖の過剰発現は、免疫-内分泌相関を介した機序により、加齢性の子宮内膜増殖症に関与していると考えられた。Tg2Rβマウスは加齢性の子宮内膜増殖症モデルとして利用でき、病態の解明に有用であると思われる。
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