本年度研究実施計画は実験的内リンパ水腫における蝸牛の免疫組織化学的検討であった。前庭水管遮断による内リンパ水腫はメニエール病のモデルとして研究されてきたが、蝸牛の恒常性維持に不可欠なラセン靭帯に着目した研究は非常に少なく、その詳細は知られていない。これは内リンパ水腫の病態解明につながると考えられる。今回着目したtaurineは中枢神経においては2番目に多く存在するアミノ酸で、内耳における局在も報告されている。その主な役割には細胞容積や細胞内浸透圧の調節があり、細胞周囲の浸透圧の変化に敏感に反応すると考えられている。内リンパ水腫はその形態的特徴から電解質や浸透圧などの内耳恒常性が破綻した状態と考えられ、障害部位にはtaurineの変化が出現する可能性があるため、その局在について免疫組織化学的に検討した。その結果、ラセン靭帯、ラセン唇、前庭および半規管の感覚上皮下の線維細胞においてtaurineの染色性の減弱を認めた。最近の研究では内耳恒常性の維持に中心的役割を担っているK^+recycling経路にはラセン靭帯線維細胞のみならず、ラセン唇や前庭上皮下の線維細胞のnetworkも関与していると予想されている。taurineの染色性の減弱はそれらの領域で様に認められたため、実験的内リンパ水腫では前庭水管遮断により、K^+recycling経路を構成する細胞群に容積変化をきたすストレスが加わり、内耳恒常性の破綻に関与している可能性が示唆された。今後も引き続き実験的内リンパ水腫における内耳の変化を免疫組織化学的手法を用いて検討する。
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