研究概要 |
ヒトの鼓室や乳突蜂巣の発育について基礎的に明らかにすることを目的に研究を行っている.当教室所有の側頭骨標本1200余耳を用いて,骨代謝に関与する骨芽細胞や破骨細胞の定量的な観察を側頭骨の部位毎に行った. 研究の第一段階として,中耳炎,奇形および放射線照射例や化学療法例を除外した,「外因のないと考えられる」症例についての観察を終了した.胎生30週から29才までの側頭骨標本63耳を胎児群(出生前),小児群(15才未満),成人群(15才以上)とに分類し,乳突蜂巣,上鼓室の外側,蝸牛骨胞,耳管,耳管周囲蜂巣および乳突洞口の各部位の中耳腔側と骨髄側で,それぞれ骨芽細胞と破骨細胞の出現頻度について光学顕微鏡下に観察した.各部位における骨芽細胞と破骨細胞の出現頻度を4段階に分けて評価した. 結果:(1)成長時期別の検討では,胎児群と小児群で骨芽細胞や破骨細胞は多数出現しており,その出現頻度は成人群に比べ有意に高かった.また一部の観察部位では胎生群に比べ小児群で有意に各細胞の出現頻度が高かった.(2)観察部位別の検討では,乳突蜂巣などでは他の部位に比べ両細胞の出現頻度が高い傾向を示した.(3)中耳腔側では破骨細胞が多く出現し,骨髄側では骨芽細胞が優位に出現した. 考察:成長時期別にみると成人群では骨芽細胞と破骨細胞はほとんど観察されないことから,側頭骨の活発な代謝は15歳までに終了すると考えられた.次に部位別の検討では骨芽細胞と破骨細胞の出現する頻度に違いがあり,特に乳突蜂巣の各部位,蝸牛骨胞上部および耳管周囲蜂巣では他の部位に比べ両細胞の出現頻度が高い傾向を示し,これらの部位ではより活発に骨の形成や吸収が繰り返されていると推察された.また蝸牛骨胞の中鼓室部・下鼓室部と乳突蜂巣の上鼓室部後方と中鼓室部では,胎児群に比べ小児群で有意に骨芽細胞の出現頻度が高く,出生後に骨代謝が活発化している可能性が示唆された.
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