放射線治療は、頭頚部領域の悪性腫瘍において、放射線感受性が高いものが多いことから、有効な治療法として従来から積極的に活用されている。しかし、放射線照射中ある程度の期間が経過すると、放射線による口内炎が頻発し、治療の妨げとなっている。そこで我々は、ラットを用いてその口腔周囲に実際に放射線を局所照射、実験的にロ内炎を発生させ、組織学的、免疫学的影響について比較検討しようと試みた。 その結果、ヒトであれば、2Gy/day・約40Gy程度で放射線性口内炎を生じるのだが、ラットの場合は、その約2〜3倍の開きがあることが判明した。この差異に注目し、ラットの放射線耐性の原因について究明すれば、ヒトの口内炎にフィードバックすることで、放射線口内炎に対する治療が前進しうると考えられた。 最初にラットに局所的に放射線照射を行い、どれだけの線量を照射すると口内炎が生じるのかを模索してみた。以前の予備実験では、1日照射線量4Gy、総照射線量100Gy照射したラットにて、肉眼的にびらん・潰瘍の発生を認めている。 今回、さらに対象を絞り込み、確実に潰瘍が発生する条件を設定し、短期間の照射で実験的な放射線性口内炎を発生したラットを作成することを試みた。それぞれのラットで照射方向、1日照射線量、照射頻度、総照射線量などいろいろな因子を組み合わせて照射してみたが、その結果には大きなばらつきがあり、現在のところ、いまだ確実な実験モデルを作成するに至っていない。 また、今後ヒトおよびラットの血液や、口腔粘膜細胞などを採取し、実験的に放射線を照射、その放射線量、照射時聞の差異によって、ヒト-ラット間で、免疫学的変化を考察する予定である。具体的には、放射線耐性リンパ球の発現の有無、粘膜防御因子の造成の大小などについて、主にin vitroでの究明を目指す。
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