対象と方法:平成14年度から引き続き嚥下圧3点同時測定を実施した。対象は正常ボランティア6例、中咽頭癌術後6例、下咽頭癌術後3例である。すべての症例で文書による同意を得た。平成15年夏から嚥下造影画像も圧測定結果と同期して測定可能となった。これまで嚥下造影画像はビデオテープに録画されていたが、これを直接パーソナルコンピューターに取り込みデジタル化する。Quick Time Capture(AD Instrument社)を通してデジタル化された動画像はChart(AD Instrument社)のデータとして圧波形と同時に記録される。これによって嚥下運動の任意のタイミングにおける中咽頭圧、下咽頭圧、食道入口部圧が測定でき、また視覚的にそれらをとらえることができるようになった。 結果:中咽頭症例では中咽頭レベルでは患側の嚥下圧低下が有意にみられた。健側においては正常より低い値をしめすものの正常の嚥下圧伝搬がみられた。また、食道入口部圧は咽頭期惹起に伴う陰圧化は患側健側ともに見られた。下咽頭癌症例(喉頭半切除、下咽頭部分切除-前腕皮弁再建症例)は3例施行した。いずれの症例も中咽頭圧はたもたれていたが、下咽頭圧、食道入口部圧は正常嚥下と全く異なる圧変化を示した。すなわち、通常の嚥下では嚥下圧のピークが中咽頭から食道入口部まで順次伝搬されるが、再建された下咽頭では下咽頭圧、食道入口部圧のピークは中咽頭圧のピークとほぼ同時に観測された。 考察:再建された下咽頭は蠕動運動を行うことなく、より上方の中咽頭で形成された嚥下圧のみによって食道へ送られていると示唆された。中咽頭癌、下咽頭癌の切除再建術において、安全な嚥下機能の獲得が発声機能温存の前提である。今後も研究を継続し、再建方法の改善、嚥下機能改善手術の開発に継げていく予定である。
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