網膜循環において、血圧の上昇に対し血流量を一定に保つ働き、いわゆるオートレギュレーション機構が存在することが知られている。これは、急激な血圧の上昇により毛細血管へ血液が過度に流入して出血や浮腫を引き起こされるのを防ぐ、生体防御機構であると考えられている。さらに糖尿病網膜症を有する患者においてはこのオートレギュレーション機構が減弱していることも報告されている。しかし、この機構の詳しいメカニズムはこれまで解明されていなかった。我々は健常人を対象にレーザードップラー眼底血流計を用い、寒冷刺激による血圧増加時における網膜細動脈の反応を評価した。すると寒冷刺激による血圧上昇に対し一過性に血流速度が増加して血流量は増加するが、その後遅れて起こる網膜細動脈の収縮によって血流量が元に戻ることがはじめて明らかとなった。 低酸素負荷によって網膜血流量が増加することは知られているが、そのメカニズムは明らかではなかった。我々はネコを用い、レーザードップラー眼底血流計で網膜循環動態を評価し、重要な血管拡張物質である一酸化窒素(NO)がこの増加反応に関与しているか検討した。NO合成酵素阻害薬であるL-NAME投与群ではコントロール群に比べ血流量の増加は有意に抑制された。また、シェアストレスの指標であるずり速度がコントロール群で増加したことから、この増加反応には血流依存性血管拡張反応が関与していることが示唆された。また、この反応は血管内皮より放出されるNOが重要な働きをしており、低酸素負荷時のNOによる血流増加は血流依存性調節を介していることが明らかとなった。
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