研究概要 |
今年度はまず,細胞の分化形質の違いによるmonocyte chemoattractant protein-1 (MCP-1)の発現変化を検討するために,分化状態と脱分化状態の網膜色素上皮細胞(RPE)をin vitroで樹立した。具体的にはヒトRPEをラミニンでコーティングしたフラスコ上にbFGF添加DMEMにて培養すると,形態的にも分子マーカー的にも分化したin situの状態に近いRPEが培養できることから(Exp Eye Res 1997),これを生理的状態を反映する分化RPEとした。一方,通常のプラスチックフラスコ上に培養し線維芽細胞様に形質転換した細胞を脱分化RPEとした。上記の方法で作成した分化,脱分化RPEにおいて,形質の違いが最大になるコンフルエント約3日後に培地交換し,その6時間後に細胞からRNAを抽出。また48時間後に培養上清を採取し,RT-PCR, ELISA, Western blotting法にてMCP-1の発現変化を調べた。その結果,脱分化RPEではサイトカインによる刺激がない状態ですでに約10ng/mlという高濃度のMCP-1蛋白の産生がみられ,RT-PCRでも脱分化RPEでは分化RPEに比べMCP-1 mRNAの著明な発現亢進がみられた。TNF-α,IL-1βにて刺激すると分化RPEではMCP-1産生の亢進がみられたが,脱分化RPEでは殆ど変化はなかった。 つぎに脱分化RPEにおけるMCP-1発現亢進の分子メカニズムを検討するために,MCP-1発現調節に重要と考えられている転写因子NF-κBの活性化について,NF-κBの阻害因子であるIκBのWestern blotting法,蛍光免疫染色法による核内移行を用いて検討した。その結果,脱分化RPEでは分化RPEと異なり,阻害因子IκBの分解が亢進しており,そのためサイトカイン刺激前からNF-κBの核内移行がみられた。以上これまでの研究成果から,脱分化RPEでは細胞の形質転換に伴いIκBの分解に引き続くNF-κBの活性化がみられ,その結果MCP-1がサイトカインの刺激がない状態で恒常的に発現している可能性が示唆された。
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