研究代表者は神戸大学医学部附属病院に於いて、遺伝性網膜疾患を有する260名の患者を診療し、自覚的検査として視力、ゴールドマン視野検査、他覚的検査として多局所網膜電位図などの電気生理学的検査を用いて視機能を評価した。同患者の一部である10名から、十分に研究の概要および目的を患者・血縁者その他関係者に説明し、患者から同意書を得た上で、採血による遺伝子診断を行った。遺伝子解析結果が個人情報の侵害を引き起こさないように、個人を特定できるような氏名等を用いずに連結可能匿名化し、個人情報管理者を配置して検査結果を保存するなど細心の注意を払った。抽出した遺伝子は濃度を確認した上で保存した。ビジュアルサイクル関連遺伝子の1つである11-cis retinol dehydrogenase (RDH5)について、採取した遺伝子をPCR (polymerase chain reaction)法を用いて増幅し、オートシークエンサーを用いて直接的に塩基配列を決定し、その変異の有無を確認した。その結果、黄斑変性を伴う眼底白点症の患者1名に、RDH5遺伝子の新しい変異G490T(Val164Phe)を発見し、その詳細についてAm J Ophthalmol誌に報告した。眼底白点症患者が加齢に伴って白点は消退して、以前はなかった黄斑変性が出現しうることを明らかにした。研究代表者は遺伝性網膜疾患患者260名のうち、20名の妊娠の可能性のない成人に対し、ビタミンA投与の治療効果及びその副作用について、十分に説明し同意を得た上で、ビタミンA内服(1万単位/日)を開始した。ビタミンA内服2万5千単位/日以下についての安全性は報告されているが、肝機能及び腎機能などを一定間隔で測定し、副作用発症時には直ちに内服を中止するなど細心の注意を払って行った。
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