角膜および結膜上皮よりなる眼粘膜上皮面を一つのユニットとして捉えることにより、種々の難治性疾患の病態が明らかとなりつつある。輪部移植、羊膜移植、更には培養角膜上皮シート移植など、外科的再建法の飛躍的な発展により、眼類天疱瘡やスチーブンス・ジョンソン症候群などの重症ドライアイに対しても良好な手術結果が得られるようになっている。しかし、角結膜上皮の角化、遷延性上皮欠損などのため、角膜の透明性が失われる症例も少なくなく、より有効な治療戦略の確立のため、眼表面上皮の恒常性維持についてさらなる解明が必要である。 本研究においては角結膜上皮細胞の分化、増殖に関与するトランスグルタミナーゼに注目し、まず重症ドライアイアイモデルであるビタミンA欠乏ラットを用い、角結膜上皮の角化過程に1型トランスグルタミナーゼが重要な働きをしていることを明らかにした。また、ラット角膜上皮創傷治癒モデルを用い、2型トランスグルタミナーゼが細胞外基質を重合・安定化を通じて、角膜上皮創傷治癒促進に働く可能性を示した。 次に、気管支上皮細胞における場合と同様に、1型および2型トランスグルタミナーゼが角結膜上皮においても相反する発現挙動を示すのではないかという仮説を立て、DNAマイクロアレーを用いて、ビタミンA欠乏ラット角結膜における発現異常遺伝子を検索した。この結果をもとに、IFNγ、TGFβを培養ヒト角膜上皮細胞に添加し、1型および2型トランスグルタミナーゼの発現動態を比較検討したところ、IFNγは1型トランスグルタミナーゼを、TGFβは2型トランスグルタミナーゼを強く誘導することが見出された。眼組織内に常在するTGFβと、ドライアイなどの炎症性疾患で異常発現するIFNγのバランスに基づいて、1型および2型トランスグルタミナーゼ発現がコントロールされ、角結膜上皮の分化度が規定されている可能性がある。
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