涙腺の慢性移植片対宿主病(cGVHD)によるドライアイの進行には線維化病態が中心的役割を果たしている。そこで、本年度はcGVHD涙腺での線維芽細胞の活性化を誘導する免疫応答の役割を涙腺生検組織を用いて検討した。対象は造血幹細胞移植後にドライアイを発症した9例で、シェーグレン症候群5例を対照とした。生検により採取した涙腺組織を光学顕微鏡、電子顕微鏡を用いて病理組織学的に評価した。cGVHDでは涙腺導管周囲にCD34^+線維芽細胞の増加、密な膠原組織の集積による線維化、腺房組織の萎縮を認め、血管壁基底膜は著明に肥厚、多層化していた。線維芽細胞の細胞質小器官は著明に発達し、膠原線維をactiveに産生している像が観察された。これらの所見は発症間もない症例でもみられ、軽症例に比べて重症例で顕著であった。涙腺導管周囲にはCD4^+およびCD8^+T細胞が浸潤し、一部は抗原認識による活性化で発現誘導されるCD154/CD40リガンドが陽性であった。同部位の電顕像では、細胞質突起の接着構造を介した線維芽細胞とT細胞を中心とした多彩な炎症細胞との結合所見が多数みられた。導管周囲の線維芽細胞の多くはHLA-DR、接着分子(CD54/ICAM-1)、副刺激分子(CD40、CD80、CD86)を発現していた。一方、SS涙腺ではT、B細胞浸潤が主体で、線維芽細胞は少数であった。これらの研究結果からcGVHDの線維化病態における線維芽細胞とT細胞の協調作用の重要性が示された。したがって、T細胞由来の液性因子や膜蛋白からの活性化シグナルが線維芽細胞の持続的な増殖、細胞外マトリックス産生を誘導している可能性が考えられ、次年度は個々のシグナルの重要性について評価していく予定である。
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