網膜神経幹細胞をより効率良く網膜視細胞に分化誘導するために、Crxと同様に視細胞の運命決定に関与している可能性があるホメオボックス遺伝子Otx2について、引き続き機能解析を行った。発生期のOtx2の視細胞における発現パターンを解析したところ、Otx2の発現はCrxにやや先行し、神経網膜においてはほぼ重複していることが示された。Otx2のホモ接合ノックアウトマウスは胎生致死のため、Crxプロモーターの制御下にOtx2の発現を消失させるようなコンディショナルノックアウトマウスを作成した。このコンディショナルノックアウトマウスは、生存および繁殖可能であった。網膜における表現形を解析したところ、生後9日においても視細胞の発生はみられず、アマクリン細胞の増加がみられた。この結果から、Otx2は網膜前駆細胞が視細胞に分化する際に必須であることが示された。続いて、レトロウイルスベクターを用いてOtx2を生後0日の網膜にトランスフェクションし、強制発現実験を行った。細胞系譜解析の結果、ウィルスベクターが感染した細胞のほとんどは視細胞に分化していることが示された。また、Crxプロモーターを用いたルシフェラーゼアッセイにより、Otx2がCrxプロモーター上のCRX結合部位を介してCrxの発現を制御することを示唆する結果が得られた。これらの結果より、Otx2は視細胞の初期発生において必要かつ十分であり、Crxの上流遺伝子として機能していると考えられた。Otx2を網膜神経幹細胞に導入することにより、視細胞への分化を効率よく誘導できる可能性があると考えられる。
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