【目的】腸管粘膜防御機能の破綻に伴う"Bacterial Translocation (BT)"は、長期経静脈栄養法施行時の廃用性萎縮、放射線曝射や制癌剤投与時の腸粘膜障害などの病態で発症する危険性があり、これらの病態下ではBT予防のために消化管粘膜を維持する何らかの対策が必要であると考えられている。我々は腸管グルカゴンの一つであるグリセンチンが腸粘膜上皮細胞増殖作用を有することを報告してきた。 今回はグリセンチンの腸管免疫系へ及ぼす効果をヒドグリセンチンを用いてin vivoで検討した。 【方法】1)Wiustar系ラット(200〜250g)に中心静脈栄養を1週間施行群、2)同様に中心静脈栄養内にグリセンチン(1μg/kg)を混合し1週間施行した群、3)中心静脈栄養を2週間施行群、4)中心静脈栄養内にグリセンチン(1μg/kg)を混合し2週間施行した群を作製し以下の実験を行った。1)体重、腸管重量、2)回盲部より10cm口側の回腸及び幽門部より10cm肛門側の空腸の絨毛高、Brd-U染色、IgA染色による比較検討をした。 【結果】体重、腸管重量では中心静脈栄養2週間施行群において1週間施行群より有意な体重増加が見られたが腸管重量には有意差を認めなかった。また1週間施行群と2週間施行群の各々のグリセンチン添加群と非添加群の間では有為な差は見られなかった。空腸の絨毛高・Brd-U染色、IgA染色では、2週間施行群において1週間施行群よりやや絨毛高が低くなる傾向が見られたが染色結果を含めて有意差は認められなかった。また1週間施行群と2週間施行群の各々のグリセンチン添加群と非添加(コントロール)群の間でもやはり有為な差は見られなかった。 【考察】今回の実験により、中心静脈栄養の期間は2週間に延長してもその差はわずかであり、1週間での検討で充分であると考えられた.細胞レベルでの腸管粘膜上皮の機械的・免疫学的バリア機能の増強は確認されているため、やはりグリセンチンの投与法(シリンジ、チューブ内のグリセンチンの吸着等)及び、投与濃度に問題がある(100μg/ml以上が必要な可能性が示唆される。)ものと思われた。
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