マラッセ上皮遺残は、歯根膜の中という生理的に内部環境に存在する特殊な上皮であり、もともと内外エナメル上皮が発生過程の根相当部で断裂し、ヘルトヴィッヒ上皮鞘が歯根膜に残存したものである。これまでに、このマラッセ上皮をブタ歯根膜から単離し、この細胞を用いた研究を行ってきている。口腔上皮と同じ扁平上皮細胞ということから歯肉上皮のモデル系として用いているとの報告もあるが、われわれの行ってきた実験では、Ca^<2+>濃度非依存的細胞増殖を示すなど口腔上皮との違いも明らかになってきている。 そこで、プタ歯根膜から単離したマラッセ上皮細胞と口腔上皮細胞からそれぞれRNAを抽出、cDNAに逆転写後、両者に特異的あるいは強度に発現している一連の遺伝子を検索するため、まずDifferential Display(DD)法を行った。DD法により特異的な遺伝子は、マラッセ上皮のみで発現しているものが16種、マラッセ上皮に強発現していると考えられるものが32種確認された。これらの確認された遺伝子をアクリルアミドゲルごと切り出し、DNAを抽出し、クローニング用ベクターに組み込み特異的遺伝子の単離を行った。単離された遺伝子の配列は、PCRによる増幅の後、PE310Sequence analyzedによるダイレクトシークエンスで塩基配列を検索した。これらの遺伝子の中には、歯原性上皮に特異的あるいはあるいはエナメル関連タンパクをはじめとした歯胚発生過程に関わる遺伝子が含まれていることが示唆された。
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