グラム陰性偏性嫌気性細菌Porphyromonas gingivalisは歯周炎の発症・進行において最重要視されている病原性細菌であり、菌体表面および菌体外に強力なプロテアーゼを産生する。なかでもジンジパインは本菌の産生する主要なプロテアーゼであり、ペプチド切断部位特異性の異なるArg-gingipain(Rgp)とLys-gingipain(Kgp)が存在することがわかっている。両酵素は相互に協力しながら生体タンパク質の分解を引き起こし、宿主細胞に傷害を与え、歯周病に関連する種々の病態を生み出すと考えられている。最近、歯周病が心筋梗塞、早産・低体重児出産などの全身疾患のリスクファクターであることが指摘されるようになり、アテローム性動脈硬化症患者の血管内プラークの45%にP.gingivalisが検出されるとの報告もある。我々は歯肉線維芽細胞や血管内皮細胞に対してRgp・Kgpを作用させると、接着性が失われ、細胞死を引き起こすことを見出した。また、一部のP.gingivalisは血管内皮細胞に侵入し、オートファゴソームに局在することによって、リソソーム内分解系からの攻撃を回避していることを示唆するデータを得ている。この一方で、菌体の膜表面に存在する高分子複合体を分離精製し、この複合体がプロテアーゼと血球凝集素、ヘモグロビン結合タンパクの他にLPSやリン脂質を含み、酵素単量体に比べてはるかに高い細胞傷害性を示すことを見出した。このような細胞傷害性は、両酵素欠損株では認められず、また、当研究室において新規に開発、作製されたRgpおよびKgpの特異的阻害剤によってほとんど消失することがわかった。すなわち本菌による生体細胞傷害性が、酵素を阻害することで制御できる可能性が示された。
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