唾液腺細胞の細胞内Ca^<2+>動態は、主に腺房細胞について調べられてきたが、導管細胞のCa^<2+>動態については十分に検討されていない。本研究では、ラット顎下線導管細胞と腺房細胞においてアゴニスト刺激を介した細胞内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>] i)上昇反応に違いがあるか否か検討した。さらに導管細胞と腺房細胞の受容体mRNA発現量をRT-PCR法により解析した。 Ca^<2+>イメージングシステムを用いた実験により、腺房細胞はタキキニン受容体およびムスカリン受容体刺激に対して高い反応性を持つことが明らかとなった。一方、導管細胞はα一アドレナリン受容体刺激に対して高い反応性を有していた。またイソプロテレノールを用いた実験により、導管細胞にβ-アドレナリン受容体を介した[Ca^<2+>] i上昇機構が存在する事が確かめられた。 導管細胞と腺房細胞の受容体mRNA発現量を調べるためRT-PCRによる解析を試みた。実体顕微鏡下においてマイクロピペットを用いた分離法により導管細胞と腺房細胞を分離した。それぞれの細胞群からtotal RNAを用いて実験を行った。タキキニン受容体mRNAの発現は、腺房細胞に強い発現が観察されたが、導管細胞では極めて弱かった。またα_<1a>-アドレナリン受容体mRNAの発現は導管細胞に強い発現が観察された。一方、ムスカリン受容体サブタイプ(M_1、M_3およびM_5)のmRNA発現量には大きな差は認められなかった。またβ-受容体サブタイプ(β_1およびβ_2)のmRNA発現量にも大きな違いは認められなかった。 本研究によって、導管細胞と腺房細胞では、受容体を介した[Ca^<2+>] i上昇反応に大きな違いがあることが明らかとなった。またサブスタンスPおよびエピネフリン刺激による[Ca^<2+>] i応答と受容体mRNA発現量はよく相関していた。一方、ムスカリン受容体刺激を介した[Ca^<2+>] i応答と受容体mRNA発現には相関は認められなかった。導管細胞と腺房細胞では、受容体発現量だけでなく受容体以後の情報伝達機構にも違いがある可能性が示唆された。
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