研究概要 |
末梢皮膚の急性炎症が歯痛伝達にどのような修飾作用をもたらし,その効果にセロトニン受容体が関与するか否かを検討するため,今年度はマルチバレル微細電気泳動投与法(イオントフォレーシス法)を用いて,前肢皮膚へのカラゲニン皮下投与後の歯髄電気刺激に応答するC_1ニューロン活動の変化とセロトニン受容体の関与を経時的に電気生理学的に解析した。 麻酔・前処置後,マルチバレル電極にて歯髄電気刺激に応答するC_1ニューロン放電を細胞外記録し,これをコントロール(皮下投与前)とした。ラット前肢足底へ0.9%NaCl(対照群)と起炎物質カラゲニン(6mg/0.15cc,実験群)をそれぞれ皮下投与し,1分後,5分後,10分後,以後10分ごとに最大60分まで経時的に記録し,放電頻度の経時的変化率(コントロールに対する%変化)について比較解析した。カラゲニン投与による炎症の指標は,薬物皮下投与前後の前足掌の厚さを計測することで炎症性浮腫の形成を定量化した。その結果,対照群では薬物投与前後のC_1ニューロン放電頻度に有意な変化は観察されなかったが,実験群では1分後から有意な抑制効果(抑制率63.5%)が観察され,その効果は60分後まで持続していた。 次に,実験群ラットにおいて,5-HT_3受容体拮抗薬ICS-205930を電気泳動的に前投与し,カラゲニン皮下投与後の歯髄刺激に応じるC_1ニューロン活動の変化を解析した結果,全例において,カラゲニン皮下投与によるC_1ニューロン放電頻度の抑制は有意にブロックしていた(脱抑制効果)。 以上の結果より,前肢皮膚へのカラゲニンによる急性炎症は,C_1ニューロンにおける歯痛伝達を有意に抑制し,その反応は5-HT_3受容体を介した下行性疼痛抑制系により発現される可能性が示唆された。また,この効果は,拡延性疼痛抑制制御diffuse noxious inhibitory controls(DNIC)が駆動された結果生じた可能性も考えられる。
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