研究概要 |
歯原性上皮の腫瘍化における細胞増殖因子とそのシグナル伝達機構の異常を解明するため、歯原性上皮に由来する代表的な腫瘍であるエナメル上皮腫におけるチロシンキナーゼ型リセプターを介する細胞増殖因子HGF,VEGFについて解析した。今回、更にこれらの増殖因子の重要なシグナル伝達経路であるRas/MAPK経路について検索した。 1.Ras/MAPK経路のシグナル伝達分子K-Ras,Raf1,MEK1,ERK1/2の発現 検索した全組織(歯胚10,エナメル上皮腫46,悪性エナメル上皮腫6)において、これらのシグナル伝達分子の免疫組織化学的発現が確認された。これらの発現は、主として基底膜近傍の歯原性上皮性細胞で高かった。エナメル上皮腫におけるこれらのシグナル伝達分子は、叢状型で濾胞型より高い発現傾向を示し、角化部や顆粒細胞での発現は明らかに低かった。これらの所見よりRas/MAPK経路は正常および腫瘍性の歯原性上皮において機能し、細胞の増殖や分化に関与することが示唆された。 2.Ras/MAPK経路のシグナル伝達分子K-Rasの変異 癌原遺伝子としても知られているK-Rasはエクソン1,2より構成され、それぞれ変異のホットスポットであるコドン12,13および61を含んでいる。新鮮材料の得られたエナメル上皮腫22例、悪性エナメル上皮腫1例よりDNAを抽出し、DNAダイレクトシークエンス法でK-Ras遺伝子の異常について検討した。その結果、エナメル上皮腫1例においてエクソン1のコドン12にGGT→GCTの点変異がみられた。これらの腫瘍におけるK-Ras変異の頻度は低く、腫瘍発生や悪性化との関係は明らかでなかった。
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