アポトーシス系のシグナル伝達機構を調べる中で、オカダ酸により誘導された口腔癌アポトーシス細胞では、鍍銀染色に陽性反応を示す核小体形成帯が消失すること、アポトーシス誘導の際に、鍍銀染色に陽性反応を示す110kDa核内蛋白が消失し、80kDaの鍍銀染色に陽性反応を示す蛋白が出現することを発見した。更に、cell-free systemにおける解析の結果、110kDaの蛋白の変化はアポトーシスの実行機構であるDNA fragmentaionと密接な関係があることも発見した。しかも、ニュークレオリンモノクローナル抗体を用いたWestern blotting法及び免疫組織化学の結果から110kDa及び80kDaの蛋白は両者ともニュークレオリンであることが証明した。しかも、その経過はDNA fragmentationが惹起する時間と極めて連動性を示すものだった。上記したオカダ酸誘発アポトーシス細胞におけるニュークレオリンの分解は、抗癌剤及び紫外線照射によっても惹起されることが確認され、アポトーシス細胞における普遍的変化としてその指標となりうるものである。つまり、ニュークレオリン含む細胞内核内蛋白の変化がアポトーシス実効機構において、極めて重要な役割を示すことを意味するものである。一方、in vivoにおける実験モデルの作成を目的に、ヒト舌癌由来の細胞株(VX2)を兎の下顎歯肉に移植し下顎歯肉癌を惹起させる実験系を作成した。同腫瘍に放射線照射した際、癌組織は縮小しその一部はTUNEL法を用いた組織学的所見からアポトーシスによるものであることが判明した。また、in vitro上で生じたニュークレオリンの分解が、in vivoにおける照射後アポトーシスを誘導が認められた実験モデルから得た組織抽出液からも確認された。以上の結果は更にニュークレオリンの分解がアポトーシス誘導を簡易に表す指標になりうることを意味する。同時に放射性感受性を示す指標となりうる可能性を示唆するものである。更に、僅か6症例ではあるが患者からの口腔癌細胞株を用いた研究から培養株細胞でニュークレオリンの分解が生じやすいものは、放射線感受性が高いという結果も得ている。
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